薄桃色の雪
皆の話し声が大きなウエーブとなっておいらの耳元まできた。
そのウエーブはひとつの固まりになった。そしてクラッシュした。
もう限界だとおいらは思った。
「オレ帰るよ」
呪われたウサギのような顔をしておいらはやっとその言葉を口にすることができた。
「そうか」
男は何もなかったように言った。
外に出ると昼間はあんなに暖かかったのに雪がひらひらと降っていた。
その雪は薄いピンク色に見えた。
寒さとは裏腹にその雪は外灯に照らされきれいだった。
おいらはたまにフェラーリのオーデコロンをつけることがある。
今日もそうだった。
べつにフェラーリがすきというのではない。しかしその車はとても高い車
で、おいらが逆立ちしても手が出る車ではないことくらいは知っている。
だから手が出るコロンを買ったのかもしれない。
そのフェラーリの赤がその雪に混じったのか?
それともおいらだけがそのように見えるのだろうか?
あの日もそうだった。昼間はとても暖かかった日夜に雪が降った。
駅からの帰り道で、一人の女と出会った。
あの日の雪は薄いピンクだったのだろうか?覚えていないが
そうだったのかも知れないと思った。
おいらはまだなれていない女とぎこちない会話をしながらバーに入った。