白髪の男はサラリーマン風の男に向かってニッコリとしたような笑美をうかべ、「待っていたよ」と言った。「こちらがKさん私の変わりに夢の中に入ってくれる方です。」Kは「はじめまして」と言い「これは夢なんですよね」と聞くと、「夢といえば夢、貴方の事は良く知って居ます。楽しい青春を過ごしてきた事も」と白髪の男はKを見ながらいった。
「ええ楽しかったです。だから、夢でもう一度戻してくれると言うのを聞いて、それなら楽しいのをもう一度、なんておもいまして」
「そうでしょう、あんなに楽しかったなら誰もが戻りたいとおもいますよ」と言って白髪の男はKの前に立ち、何かを言った。それが、日本語なのか、何かのおまじないなのかは分からなかったが、スーと気が抜けたような感覚になり意識を失った。
それからどれくらい立ったのだろうか気がついたらKは自分の布団の上に居た。
あーあやっぱり夢だったんだと、思った。
時計を見るともう7時に近かった。昨日はサラリーマン風の男と飲んでしまって夢の話をしたので、きっとこんな夢を見たのだ。
もう会社に行く仕度をしないとと思い、Kはあくびを一つしながら伸びをした。
三ヶ月まえからKは女房と話し合って、別居していたのだ。何をやるのも口うるさい女になってしまった女
付き合っていた時はそうでもなかったが、15年と言う年月がだんだん女を口うるさくして言った。そんなに給料の良くないKは、良く大学時代の友達と比較される、それを聞くたびにKはうんざりしていた。幸い子供は居なかったので、このさい少し離れてみようかとKが言ったところ女はすんなりOKを出したので、近所に小さなアパートを借りて今は一人暮らしをしていた。
女房のほうは、いわゆるキャリアウーマンというやつで、Kが居なくても何も困らないようで、よほどの事が、ない限りKに連絡をとってこなかった。
かえって、今では一人になって、気が楽だとKは思っていた。きっとこのまま離婚という形になるかも知れないが、それならそれでも良いとKは思っていた。